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パソコンが僕の人生を変えた(2)

(80 串田孫一さん
夏の一日、訪れた高原で咲く花の脇に腰を下ろし、蝶が来るのを待つ。
串田孫一さんの随筆集「星と歌う夢」(平凡社)に「夏の木陰」という文章が収められている。

蝶を捕らえようというのではない。
「その姿や動作をじっと見て、短いい生命を抱いたものが、長く生きるものより焦ることなく花の蜜を吸い、ゆっくりと憩う容子に見蕩(と)れるためであった」とある。

届いた小包の紐は、丹念に指でほどく。機械で結んだ紐は解きにくい、ハサミやナイフは使わない。「五分十分とそのために時間を費やしても、それだけの時間を失った、損をしたと思わない」と、これは別の一文につづられている。小包の紐はハサミで一刀両断、気ぜわしい折には封書を開くのさえ力からまかせに引きちぎる身である。

串田さんの文章に触れるたびに、「野の蝶をご覧なさい」と行間の物静かな声に叱られてきた。
「山のパンセ」など珠玉の随想や紀行文を残して、串田さんは89歳で亡くなった。

時間に追われ、喧騒の中に生きる現代人には、日だまりにぽつんと建つ精神の遺失物保管庫のような哲学者であったろう。戯れに「94051」とサインすることがあった聞く。「0」は「たま」と読むのだろう。
時代の波風にも平衡を失わなかった魂が身の真ん中にすくっと立っている。





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